物忘れ外来について
認知症とは、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、記憶力や判断力などの認知機能が低下して、生活に支障をきたした状態をいいます。食事や入浴、お金の扱いなど日常生活のさまざまなことを自分で行うことが難しくなり、一人暮らしが困難になった状態です。
認知症は年齢を重ねるほど発症する可能性が高まります。高齢化社会とともに今後、認知症の人は増え続けると予想されています。
認知症は放置するといずれ日常生活に大きな影響を及ぼしますが、早期に適切な治療や支援を行うことで症状の進行を遅らせ、日常生活の支障を軽減することができます。健康寿命を延ばし、生活の質(QOL)を維持するためには、早期診断が重要です。
物忘れ(記憶障害)は、認知症の初期症状として現れます。
当院では、「病的な物忘れ」を早期に正しく診断するために、認知機能検査、採血検査、MRI検査による総合的な診断を行います。認知症の診断に合わせて適切な治療を行い、地域の介護福祉サービスと連携をとりながら生活支援をサポートさせていただきます。
認知症の症状
物忘れ(記憶障害)
- 何度も同じ話、同じ質問をする
- 物をしまった場所を忘れて、いつも探し物をしている
注意力の低下
- 集中せず、すぐ中断し、長続きしない
- 周囲の声や人の動きに注意がそれやすい
- ぼんやりしている
- 水道栓を閉め忘れる、トイレを流し忘れる
場所や時間がわからない
- よく慣れた場所でも道に迷う
- 約束した日時や場所を間違える
性格の変化
- 怒りっぽくなる
- 周囲の人への気づかいがなくなり、頑固になる
- 疑い深くなる
意欲がなくなる
- 何もする気が起きない
- 以前楽しんでいた趣味に興味がなくなった
- 自分の服装や外見に気を配らなくなった
- 毎日のルーティンワークをやめた
不安
- 不安な気持ちになり、眠れない
- 「頭がおかしくなった」と自覚している
妄想
- 財布や通帳を「盗まれた」と疑う
認知症の原因となる病気
認知症の原因となる病気はさまざまあり、稀なものを含めると60種類以上あると言われています。以下に代表的な病気をあげます。
認知症
アルツハイマー型認知症
認知症の原因として最も多い(半数以上)です。
血管性認知症
脳卒中に関連して発症する認知症です。
レビー小体型認知症
脳の神経細胞にレビー小体と呼ばれるタンパク質がたまり、認知症をきたします。
前頭側頭葉変性症
神経細胞の変性による認知症で、脳の前頭葉や側頭葉前方の萎縮が見られます。性格や言語などに症状が現れます。症状や画像診断によって、行動障害型前頭側頭型認知症、意味性認知症、進行性非流暢性失語症に分類されます。
脳疾患
外傷性脳損傷、脳腫瘍、脳炎、正常圧水頭症、パーキンソン病など
内科疾患
甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、アルコール
抗うつ薬、パーキンソン病薬や催眠薬などの薬により認知機能が低下することがあります
認知症について
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment : MCI)
軽度認知障害は、認知機能の低下を感じている、同じ年代の人と比べて物忘れがある、けれど日常生活は正常に送ることができるという状態です。認知症ではありません。軽度認知障害と診断された方が将来認知症になるのは1年で1割程度、年齢相応の認知機能に回復する方もいます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症の原因のおよそ70%を占める疾患です。アミロイドβと呼ばれる特殊なタンパク質が脳内にたまり、リン酸化タウというタンパク質が塊を作って神経原線維変化と呼ばれる病変ができます。これらの影響で神経細胞が傷害され脳が萎縮してきます。大脳の側頭葉にある海馬が萎縮します。
症状は、物忘れから始まることが多いですが次のような初期症状が特徴です。
- 電話を済ませた後で会話が思い出せない
- 同じものを何度も買う
- 人の話についていけない
- 着衣の乱れ、ネクタイを結びにくい
- 料理が手抜き
治療は、認知症の症状を緩和したり進行を遅らせる薬を内服します。主に、コリンエステラーゼ阻害薬という薬が使われます。
介護サービスや地域の認知症支援活動を積極的に利用することも、認知機能の低下による生活の支障を緩和するために大切な治療の一環です。
2023年、アルツハイマー病の原因に働きかける初めての治療薬レカネマブ(商品名レケンビ)が日本で薬事承認されました。脳内にたまったアミロイドβを取り除くことで症状の進行を遅らせる効果があり、アルツハイマー病による軽度認知障害に適応があります。
レビー小体型認知症
脳の神経細胞にレビー小体と呼ばれるタンパク質がたまることで神経細胞が変形、脱落していき、それに伴い神経の働きが低下してさまざまな症状が現れます。
レビー小体型認知症では、「もの忘れ」という症状から始まることは少なく、便秘、レム睡眠行動障害、うつなどの症状が前兆として現れます。現実にはないものがありありと見える幻視や体がうまく動かないパーキンソン症状が現れ、次第にアルツハイマー型認知症のような認知機能の低下も起きてきます。
治療は、認知機能を維持するための薬やパーキンソン病の薬が使われます。薬による治療だけではなく、リハビリテーションなどの非薬物療法や日々の暮らしの中のケアも大切な治療の一環です。
前頭側頭葉変性症
脳の神経細胞にTDP43やタウというタンパク質がたまり、神経細胞の変性と脱落が起きて大脳の前頭葉や側頭葉が萎縮してくる認知症です。
人格変化、行動障害、言語障害が主な症状です。
具体的には、
- 礼儀やマナーがなくなる
- 無関心や無気力
- 同じコースを散歩する、同じ食事のメニューにこだわる
- 時刻表のように決まった生活パターン
- 食事の嗜好が変わり、チョコレートばかり食べる
- 漢字が読めない
- 言葉の意味が分からない
などです。
もの忘れではなく行動障害や言語障害が主な症状であるため、認知症と気づかれずに診断が遅れることがあります。アルツハイマー型認知症に比べると病気の頻度は低いですが、より若い年代で発症しますので、家族の介護負担や経済的負担が大きくなることがあります。65歳未満で発症する若年性認知症の比率が多いです。
前頭側頭葉変性症を治す根本的な治療薬はありません。アルツハイマー型認知症に使われるコリンエステラーゼ阻害薬はむしろ症状の一部を悪化させる可能性があります。
周囲のご家族や介護者の病気に対する理解が重要です。好きな単純作業を見つけたり、こだわりのある行動をリハビリに活かしたり、患者さんそれそれの症状に合わせたケアが重要です。
前頭側頭葉変性症は、症状と萎縮が強い脳の部位によって、行動障害型前頭側頭型認知症、進行性非流暢性失語症、意味性認知症の3つのタイプに分類されます。
血管性認知症
脳血管障害(脳卒中)に関連して生じる認知症です。脳出血や脳梗塞などの脳卒中を発症してから3ヶ月以内に認知機能が低下する場合と、脳卒中の症状がないまま脳内で小さな脳血管障害が徐々に進行して認知機能が低下してくる場合とがあります。後者は、ラクナ梗塞という小さな脳梗塞や、微小出血という小さな脳出血が自覚症状のないまま脳内で進行することが原因で認知症を生じます。ラクナ梗塞や微小出血は脳小血管病と呼ばれ、血管性認知症の主な原因です。
認知症の原因のおよそ20%が血管性認知症です。
症状は、初期にもの忘れは目立ちません。携帯電話が使えなくなる、料理の手順がわからなくなる、など順序立てた行動が苦手になります。意欲低下、うつや不眠などの症状が現れることもあります。
治療は、脳血管障害の危険因子となる高血圧、糖尿病を適切に治療し、必要な場合には抗血小板剤という脳卒中予防の薬を使います。
血管性認知症の診断にはMRI診断が欠かせません。血管性認知症の進行を防ぐためには高血圧などの生活習慣病の管理が重要で、アルツハイマー型認知症とは治療薬が異なりますので、認知症=アルツハイマー型認知症と考えず、脳の画像診断をきちんと受けることが大切です。
認知症予防は生活習慣から
日々の生活の中で認知症になる危険因子を避けることで、認知症を発症するリスクを減らすことができます。例えば、難聴があると将来認知症を発症するリスクは1.9倍になります。肥満や高血圧、うつや社会的孤立も認知症になるリスクを高めます。健やかな生活を送ることは、将来認知症になるかもしれないという心配や不安を遠ざけます。家族の認知症について知りたい、診断を受けたい、脳の健康について相談したい、など気になることがありましたらお気軽にご受診ください。